糖尿病治療~食事療法・運動療法~
目次
▼食事療法
▼食事療法の3つのポイント
▼運動療法
▼どんな運動がいいの?
▼有酸素運動
▼運動のポイント
~食事療法~
食事療法は、糖尿病治療の基本です。
糖尿病は、すい臓からのインスリンの分泌や働きが悪くなったり(2型糖尿病)、インスリンをつくりだす細胞が壊れてインスリンが分泌できなくなる(1型糖尿病)病気です。食事からとったブドウ糖が、インスリンが減ったり、働きが悪くなったために体内でうまく利用できなくなり、血液中にブドウ糖がたまって高血糖が起こるのです。高血糖をそのままほうってほくと、体にさまざまな異常や合併症が起こります。
そこで、2型糖尿病の人は、食事として体内に入ってくるブドウ糖の量を制限する食事療法を行うことで、弱っているすい臓の負担を軽くして、すい臓の機能を回復させます。1型糖尿病の人は、体の外からインスリンの補給をしますので、補給の調節をしやすくするために食事療法を行います。
1型も2型も食事をきちんと制限しておかないと、血糖コントロールが上手にできないばかりか、ほかの治療を行ってもなかなか効果が上がりません。
1日のカロリー(エネルギー)摂取量の目安は?
食事療法の基本的な考え方は、必要以上のカロリーをとらないようにし、すい臓の負担を軽くして働きを回復させたり、インスリンの補給による血糖コントロールを行いやすくすることです。そのため、適切なカロリーの範囲内で、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素をバランスよくとることが大切です。
糖尿病患者さんが食事からとる適切なエネルギー摂取量は、年齢や性別、身体の大きさ、運動量によって、1人ひとり異なります。医師や医療スタッフは、こうした違いを考慮したうえで、その患者さんに合ったエネルギー摂取量(指示エネルギー量といいます)を決めます。自分に合った指示エネルギー量は、医師や医療スタッフから、食事療法を始めるときの手引きなどと一緒に「食事指示票(食事指導票)」としてわたされます。
患者さんが食事をするときは、この指示エネルギー量の範囲内で、栄養のバランスがよい食品を選びます。
糖尿病治療の第一歩は食事療法から
すべての糖尿病患者さんにとって大切な食事療法。2型糖尿病の患者さんの場合はまずここから治療を始めます。食事療法の大きな目的は、食事の量や摂り方に気をつけ、インスリンを分泌する膵臓の負担を軽くすること。といっても、特別なメニューが必要なわけではありません。次にあげるポイントを守りながら、正しい食事療法を毎日の生活に取り入れましょう。
~食事療法の3つのポイント~
1. あなたにあった食事量を守りましょう。エネルギーの摂りすぎは膵臓に負担をかけます。毎日の運動量から、必要なカロリーを計算し、その範囲内で食事を楽しみましょう。
2. バランスのよい食事を心がけましょう。好きな物ばかりを食べるのではなく、食品交換表を参考に、いろいろな食品をまんべんなく摂りましょう。
一日に30品目以上摂るのが理想と言われています。
3. 一日三食、決まった時間に摂りましょう。食事の時間が不規則だったり、一日三回摂らなかったりすると、栄養を脂肪として蓄えようとする働きが強くなります。肥満を防ぐためにも、食事は一日三回、決まった時間に摂ってください。
食品交換表を見ながら、バランス良く、適量で。
カロリーを守って、バランスのよい食事をと言われても、どうすればよいのか分かりにくいかもしれません。
そこで、目安となるのが食品交換表です。これは同じような栄養分を持つ食品を、6つのグループに分けたもの。食品交換表を使えば、面倒なカロリー計算なしでバランスのよい献立をつくることができます。
食品交換表を使った献立づくりに慣れましょう。
食品交換表を使って献立をたてる時、基本となる発想は
80kcal=1単位とする
同じグループの食品を交換する
…という2つです。
まず、なぜ80kcalを1単位とするかというと、私たちが日常よく食べる卵1個、白身魚1切れ、食パン6枚切り1/2枚が80kcalに相当するからです。食品交換表の大きな特長は、同じグループの食品なら、交換して食べられること。ご飯と食パンは同じグループなので、それぞれ交換して食べることができます。この方法に慣れると、和風メニューを洋風に変えたりして料理のレパートリーが増やせます。
あなたに必要なエネルギーはどのくらい?
1. まずはあなたの標準体重を算出
2. つぎにあなたの肥満度をチェック
肥満指数
3. 体重1kgあたりに必要なエネルギー量は?
肥満解消、血糖値降下。運動療法のさまざまな効果
運動の目的と聞いて、まず思い浮かぶのが肥満の解消。けれども糖尿病患者さんには、他にも運動による効果がたくさん期待できます。血糖、体脂肪、体力の3つのポイントから、具体的に見てみましょう。
血糖への効果
血液中のブドウ糖が使われ、血糖値が下がります。
食後に運動すると血糖値の上昇が抑えられます。
体脂肪への効果
体脂肪が減少し、おなかのまわりがすっきりします。
血液中の中性脂肪が減少します。
動脈硬化を防ぐ善玉コレステロールが増えます。
脂肪が減り、体内のインスリンの働きがよくなります。
~運動療法~
血糖値に対する運動の効果について
有酸素運動により筋肉への血流が増えると、ブドウ糖がどんどん細胞の中に取り込まれ、インスリンの効果が高まり、血糖値は低下します。また、筋力トレーニングによって筋肉が増えることでも、インスリンの効果が高まり、血糖値は下がりやすくなります(これを、インスリン抵抗性の改善といいます)。ただし、運動をやめてしまうとその効果は3日程度で失われていきます。
『継続は力なり』です。
一方、強度の高い激しい運動は、からだが動くためにエネルギーを補充しようとして、アドレナリンなどのカテコラミンやグルカゴンという血糖値を上げるホルモンの分泌を増やし、一時的に血糖値が高くなることがあります。
また、血圧を上げてしまうような高い強度の筋力トレーニングは、心臓や腎臓に負担がかかり、かえって害になります。やみくもにたくさん運動をすればよいというわけではありませんので注意が必要です。
それでは、どのような運動が効果的なのでしょうか。
~どんな運動がいいの?~
インスリンの効果を高めて血糖値を下げる運動には、有酸素運動と、筋力トレーニングがあります。
一般的に、中等度の強度(ややきついと感じるくらい)の有酸素運動が勧められています。筋肉量を増加し、筋力を増強する筋力トレーニングも、同様に効果があると言われています。最近の研究では、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることによって、より良い治療効果が生まれることが明らかとなりました。
今まで習慣がなかったのに、激しい運動を急に始めると、思わぬからだの不調が生じます。ストレッチや準備体操を十分に行い、最初は軽い運動から、少しずつ強度をあげていきましょう。
合併症やほかのご病気をお持ちの方は、事前に担当の先生と相談しましょう。また、リハビリテーション科の医師や理学療法士は、こうした合併症のある方にも、ない方に対してもそれぞれの方に適した運動療法を考えてくれます。
太極拳やヨガなどのゆっくりした動きをベースにした運動でも、正しく行うと、安全かつ効果的な運動療法になると報告されています。
膝関節痛や腰痛をお持ちの患者さんは、荷重による負担の少ない水中運動や椅子に座ってできる運動がよいでしょう。糖尿病の方ご自身が「好きで、楽しく、続けられる運動」を見つけましょう。
~有酸素運動~
ウォーキングやジョギング、水泳などの全身運動です。
歩行では、1回15から30分間、1日2回。日常生活での歩行と合わせると、歩行での運動療法は一日1万歩程度が目安です。
ウォーキングの例
背筋をのばして、やや大股で、膝を伸ばして踵(かかと)から着地しましょう。軽く腕を振って、少し汗ばむ程度がいいでしょう。
筋力トレーニング
足や腰、背中の大きな筋肉を中心に、全身の筋肉を使って週2から3回の筋トレーニング(1セット10回程度)を行うことが推奨されます。しかし、糖尿病の状態が悪い方やご高齢の方が、血圧が上がるような強度の高い筋力トレーニングを行うと、かえって血管や心臓の負担になることがあります。どのくらいの強度が適切か、運動を始める前に必ず担当の先生に相談しましょう。
ふくらはぎ筋力トレーニングの例
壁などに手をついて、両足で立った状態で踵(かかと)を上げて、
ゆっくり踵をおろします。
1日の回数の目安10から20回(出来る範囲で)×2から3セット
具体的な有酸素運動・筋力トレーニングのご紹介
健康・体力づくり事業財団 健康・体力アップコーナー 運動してみよう!(外部サイトにリンクします)
~運動のポイント~
運動の強さ(強度)
ややきついと感じる程度が良いと言われています。
脈拍数(1分間に何回心臓が拍動するか)は、運動の強度の目安になります。
軽い運動では脈拍数は少し上がる
激しい運動では脈拍数は大きく上がる
と言われています。
自分の脈拍数を測りながら運動するとよいでしょう。
脈拍数の目安は、次の式で求めることができます。
(220-年齢)×0.5=運動の時に目安にする脈拍数(回/分)
糖尿病の神経障害がある、高齢者、循環器系のご病気のある方は、脈拍数をもとに運動強度を決定できないことがあります。その場合は、担当医へ相談しましょう。
運動の頻度
少なくとも週3日、できれば毎日やりましょう。
1回につき20から60分、1週間に150分以上行うことが推奨されています。
運動の時間帯
1日の間で、いつ行っても構いません。
食後に血糖値が高くなるような方は、食後1~2時間頃に運動を行うとよいでしょう。
1型糖尿病の方、血糖値を下げる薬を使っている方は、低血糖にならない時間帯を選びましょう。
便利なもの
歩数計は、日常生活の運動量の目安となります。
脈拍数や運動強度、エネルギー消費量などをモニタリングすることができるスマートフォンのアプリケーションもあります。
高齢の方の運動
高齢の方にとって、定期的な身体活動や歩行などの運動は、血糖値に対する効果だけでなく、大血管障害の予防、認知症の予防、ねたきりの予防などの健康寿命を延ばすのによい効果があります。